さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは、水道、下水道、電線共同溝、一般土木、ガスなどの都市ライフラインの工事のほか、ベトナム人技能労働者の育成を手掛けるリアル建設の前澤正利さんです。
木暮 建設業界ひとすじ。
前澤 学校を卒業後にこの世界に足を踏み入れました。当時は多様なバックグラウンドの方が職人として働き、笑顔が絶えない業界だったのですが、徐々に金融の方にシフトして景気が下火になると単価も下がり「3K(きつい・汚い・危険)」という若者が敬遠する産業になってしまいました。市場は縮小し、従事する人たちも高齢化しました。
木暮 30歳を前に独立。
前澤 ロボットで代替えできる部分はあるものの、大部分が人の手が必要な中で、28歳で一念発起して独立し、下請けとして6人でスタートしました。
木暮 ベトナム人を受け入れ。
前澤 国内では若手が入ってくるのが厳しい状況で、先行きに対する不安もあり、アジアに目を向けました。7年ほど前にベトナムを訪問したところ、まじめな国民性に感銘を受けました。この人たちとならやっていけると思い、実習生として迎え入れようと決めました。
木暮 実習生は増えている?
前澤 社内には150人ほどの日本の職人さんがいます。ベトナム出身は50人弱です。さらにベトナムの人をどう増やすかが課題でした。現場で仕事をしようにも運転免許がない。一方、車の運転ができる日本の若手は物流担当になり、技能の実力がつかない。
木暮 ジレンマ。
前澤 ベトナム人1期生は日本で研修してから現場に出てもらったのですが、どうしても時間がかかるため、ベトナムで研修センターを作りました。その結果、日本に来てもすぐに仕事ができました。その時に日本の運転免許試験の学科も現地でテキストに加えeラーニングすることにしました。時間短縮です。
木暮 売りにしている「建設プラットフォーム」とは?
前澤 作業現場のニーズとスキルを持つ業者をマッチングする仕組みです。国内志向の産業のため、当社の場合は東京を中心とした関東圏で展開していますが、関西以西は採算が合わないため参入できていません。従事者の高齢化は業界全体の課題だと考え、将来を見据えて準備しています。市場にはリフォームや建築関連の元請け・下請けや、施工会社と職人さんをつなぎ、機会損失を減らすことを重視した仕組みもありますが、土木と建築の両方に対応できるプラットフォームづくりを目指しています。サードパーティの会社として、専門商社とも提携して「見積もり支援」というサービスも展開し、安く材料を仕入れる環境も整えています。プラットフォームの運営もしつつ、eラーニングを駆使した技能実習生の資格取得支援も手掛けます。地方は労働人口が減るとみられている中、免許を持つベトナム人が建設業だけでなく農業にも参加できる仕組みを作って活躍してもらいたいです。人手不足の農業と建設業が全国規模で仲間を増やし、持続的に取り組めるように準備中です。
木暮 アイデアが結び付き、職人とアジア、農業までつながる。チームワークの重要性は普段から強調されている?
前澤 創業メンバーには「マイスター」の資格も持つ専門家もいました。認定資格は全員が取れるわけではありません。建設業は1人でも有資格者がいればいいのですが、それすら難しいことを前提に考えなければなりません。また、海外の方とも一緒にやっていくため、スーパーマンよりはチームワークでやれることが必要。
木暮 同感です。
前澤 都の認定を受けた国内初の土木の職業訓練校を3月に立ち上げました。生徒の中には積極的に重機に触れたがる子もいれば、体を動かすのが好きだったり、次の準備を黙々とやりたい子もいる。研修期間中は生徒の個性の把握に努めます。スーパーマンがいたところで、そのレベルについていけない生徒が現場に出てもうまくいかないので、相性を見極めて既存メンバーと編成しバランスの良い施工チームを作ります。現場での仕事もスムーズにいきますし、離職率も低くなります。
木暮 日本の教育は暗記が中心ですが、海外はほとんど意見論述。考えを聞くと個性がよく分かります。
前澤 アジアの方々と一緒にやっていくにはそれが一番大事です。
木暮 ベトナムを選んだのは?
前澤 日本に好印象を持ってくれる人を増やしたいという思いもありました。もともとダイビングが趣味で、フィリピンやミクロネシアなどへ行っており、のんびりしたアジアの雰囲気が好きでした。提携先を探していた際、ベトナム人の仕事ぶりに感銘を受けた銀行出身の義父が助言してくれたことも後押しになりました。ベトナムの方は日本人を尊敬してくれる人が多くてやりやすさを感じます。そうした姿勢に接すると、普段から襟を正さなければいけないと思います。
木暮 語学力が高く勤勉なベトナム人はIT業界では定評があります。職人気質で気難しい人もいる「ガテン系」の業界に溶け込めましたか。
前澤 問題なしです。やんちゃなイメージを持たれていた昔と違い、最近の土木現場はおとなしくなりました。ベトナム人は真面目なので現場に溶け込んでおり、日本人とのけんかもありません。
木暮 作業の進め方で現場の日本人との意識のずれは?
前澤 設計図がある建設の世界には進めるべき順序があり、プロセスが決まっているため混乱することはありません。信頼できるので、現場のメンバーが全員ベトナム人でもいいくらいです。
木暮 課題も。
前澤 語学力です。今や7期生を数え、実習生が増えたことで「ベトナム村」のようになっており、日本語力の低下が心配です。週末を利用して補習を組むことも検討しています。
木暮 教育も売り。
前澤 大手建設会社の下で、年配の現場監督が陣頭指揮を執っている状況に不安を感じました。国内の職人数は330万人ほどで、10年後には高齢化により100万人が離職するといわれています。今後は建築系の職人も育て、全国の現場で力になり本当の(リアルな)姿の建設業界にしたいです。
木暮 既存の枠組みにとらわれない発想。
前澤 同じことをやっていても飽きてしまいます。新しいことを始めるのは緊張しますが、マンネリが一番危ないですから。(おわり)