【第39回】「ポジティブは伝染する」川平慈英さん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは人懐っこい笑顔やユーモラスな語り口で場を和ませ、躍動感あふれるパフォーマンスで観客を魅了する俳優の川平慈英さんです。(写真はいずれも所属事務所提供)

 

 

 

 

木暮 沖縄でも異文化が触れ合う地域でお育ちになったそうですね。

 

川平 家庭内が沖縄と米国の「バイカルチャー」でしたからね。結果的に良かったのは、米国出身でアメリカンスクールの教師だった母から「英語で話して」と、かたくなに言われたことですね。いま思い返すと「少しぐらい日本語で話そうよ」と言いたくもなりますが、物心ついた頃からバイリンガルでした。食卓では英語で、母がいない時はウチナーグチ(沖縄方言)。英語で会話する能力が身に着くように厳しく接してくれた母には感謝しています。母が熱心なクリスチャンだった影響もありますね。相手に感謝し、尊重する姿勢や物事のフェアな考え方も教わりました。米国文化には小さい頃に放り込まれたんです。9歳ごろ、米カンザス州にある母の実家に「丁稚(でっち)奉公」に行かされました。学校が終わると羊の世話や小麦の収穫、豚の飼育が待っている。そこでいろいろな価値観や人への接し方に触れたのは大きかった。相手の懐にスイスイ入っていくという僕の性格はそこで培われたんでしょう。誰が来ても「No Problem!」で育てられましたね。

木暮 小学生なりのカルチャーショックは?

 

川平 ありましたね。沖縄の赤土のグラウンドがある木造の小学校からいきなり一面の芝生、運動用スタジアム完備の学校ですから。校舎にはカフェテリアもあってトレーを持てば食べ放題。横にはアイスクリームの機械も置いてある。いやぁ太りましたよ。

 

木暮 高校生で留学したときに見た米国のモノの豊かさに私も圧倒されました。

 

川平 「自宅にプールがある!」ですからね。これを9歳で経験したのは大きいですよ。

 

木暮 慈英さんの前向きさというのは生来のDNA?

 

川平 それはもう、沖縄生まれで3男坊で、甘やかされて育ちましたから。危機的状況でも「何とかなるんじゃね?」ってね。それから人の笑い声が大好き。子どもの頃、沖縄の親類が集まる恒例のクリスマス会で大人たちに芸を見せるコーナーがあったのですが、長兄慈温や次兄謙慈が朗読や小ばなしを披露する中、僕の出し物は「ハブとマングースの決闘ショー」。ひとりで「ハブやりまーす、シャー。マングース、ガチャガチャガチャ、終わりまーす!」と皆の前でやるんです。両親は「あれだけはもうやめて」と懇願するんですけど、必ず大爆笑が取れるから毎年やっていました。笑わせることで人の心を軽くできたときのカタルシスが今ショービジネスに進んだ僕の原体験としてあるんだと思います。

 

木暮 そういう人が1人いるだけで雰囲気が変わりますよね。

川平 人と人との仕事はストレスが生まれがちですから。緊迫した空気が僕のひと言で和むなら、もういくらでもムードメーカーになりますよ。昔から兄2人がけんかしているのを「やめてやめて」と止めていましたね。人と争って何かをするよりもリスペクトしながら何かを作り上げる方が良いですね。

 

木暮 リスペクトという言葉のニュアンスはどう伝えますか。

川平 「尊重」が近いのかな。根底に「あなたをUnderstand(理解)したいと思います」がある。そこからビルドアップしようと。お互いに寛容な空気があると良いアイデアが生まれたり、良い方向に向かったりする。

 

木暮 苦手だと感じる人にはどう接していますか。

 

川平 うーん、人の失敗とか間違いとかを殊更あげつらう人は苦手かもしれないですが、クリスチャンとしてその人の「負の部分」も認めてあげるしかないのかな。いろいろな事情があるわけでしょうから。兄弟全員の名前にもある「慈しみ」の気持ちですかね。座右の銘にしているのが父から教わった「和顔愛語(わがんあいご)」という言葉です。和んだ顔で愛や慈悲を語るという意味なのですが、自分が年齢を重ねるほど父がそれを実践している人だということが分かるようになりました。3年前に母に先立たれて落ち込むかと思いきや、93歳になる今でも「ステーキ食べに行くぞ!」と誘ってくるぐらいバリバリ元気なすごい人。NHK出身で大学で教鞭をとったりして昔は何かと煙たい存在でしたが、今はもう「降参」です。一緒に暮らすようになってから偉大さが分かりました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。この年になってようやくそれに気づいた自分にも感謝。親父みたいになりたいですね。まずは90歳まで生きないといけないですけどね。

「テーゲー」も大事

木暮 ITの世界では、いったん試作版を作ってから改良を繰り返す開発手法が主流になりつつあるのですが、日本ではこの「アジャイル方式」が苦手な人もいます。

 

川平 しっかりやる姿勢は日本人の素晴らしいところですが、出まかせがうまくいくこともある。どこかで見切り発車というか、とりあえず動いてみる。演劇では「インプロ」「エチュード」といった即興の稽古も大事なんです。稽古場で頭でっかちな役者には、構築されていない世界に飛び込ませる。まずはいったん飛んでみてから「飛び方はあとでいいんじゃない?」と促すような感じはありますね。

 

木暮 とりあえずやってみようと。

 

川平 そういう人の方が友達が多かったり、物事の中心になったりしますよね。前向きに楽しんでいる人は物事を成し遂げています。

 

木暮 どうせやるなら楽しくやりたいですね。慈英さんのお話で自信が持てました。

 

川平 10回挑戦して半分ぐらい成功すれば「勝率高いぞ!」と思えます。

木暮 「空気が読めない」と指摘されるのを気にしすぎていますよね。

川平 空気を読まない時にひらめきが生まれることもありますね。芝居の本読み稽古でも表現のセオリーを度外視してセリフを言う若い役者が出てきています。それがものすごく魅力的だったり、舞台で観客の心をわしづかみにしたりするんですよ。演劇は予定調和に安心する喜びもある一方で、予想を裏切る展開に「Oh my goodness!(何てこった!)」となるのも魅力。いい意味で面白くして、マンネリ化しないで演じるのが僕たちの仕事です。セオリーを破って度肝を抜く。やりすぎて「ありえへん」にならないようにしながら。

 

 

舞台でタップダンスを披露する川平さん
舞台でタップダンスを披露する川平さん

 

 

木暮 先日の舞台を拝見してエネルギーを感じました。

 

川平 演劇の底力は大きいと思います。心を豊かにしてくれる。客席の笑い声やため息が聞こえてくるだけで「ありがとう!」と思えますし、稽古では分からなかった反応も伝わる。お客さんに生かされている感じです。共有して初めて「表現」になるんですね。

 

木暮 来月はチャリティーショーがありますね。どういった経緯で始められたのですか。

 

川平 学生時代の後輩が子どもを支援するNPO団体「児童夢基金」を運営しているのが縁で、東日本大震災のチャリティーに携わったことがあったんです。そのときのスタッフが僕の演出したタップダンスのショー「シューズオン」を見に来てくれて「あの時のようなパッションでまたやりませんか」と誘ってくれたんです。出演を快諾してくれた5人で「サマーナイトドリームズ」と銘打って始めました。楽しくできるのは大事ですね。ストレスもないです。ショーが完結して「また次回」が6年続いている感じです。エンジョイできているという証しが原動力。楽しく歯を食いしばれますね。台本を練っている最中からウキウキしているんです。

 

 

チャリティーショーで観客に手を振る川平さん(中央)ら
チャリティーショーで観客に手を振る川平さん(中央)ら

 

 

木暮 同窓の早見優さんも出演されます。

川平 今年で参加2年目かな。昨年のショーには罰ゲームのコーナーもあったんですが、元アイドルだからさすがに「タップダンスで山手線ゲーム」なんかやらないだろうと思っていたら、即興で踊ってくれて会場は大盛り上がりですよ。さすが第一線で活躍した経験のある方です。トップランナーの根性を感じましたよ。

木暮 舞台の楽しさは観客まで伝わります。

川平 いい仲間とやっているのが大事。ステージで演者自身が楽しんでいるとその空気は自然とにじみ出ますからね。

木暮 ときおり悲壮感を漂わせながら仕事に向かう人を目にするのですが、どうせやるなら明るく楽しくやる方が良いですよね。

川平 ポジティブなエネルギーは伝染しますよね。気に食わないことがあっても、最終的には良いものになるんだという信念でやる。「何とかなる」という意味で沖縄の「テーゲー(適当に)」が僕の根幹にある。ときどき周りから「もう少し真剣に考えてよ」と怒られることもあるんですけどね。

 

木暮 いろいろな要素が詰まったショーのようですね。

川平 格調高いバレエの要素があったり、タップダンスとバレエのコラボもあります。一緒に出る僕らはコメディアンみたいな役回りです。バレエファンもタップダンスが好きな人も、コメディーが見たい人も楽しめる構成になっています。(おわり)

 

 

川平慈英さんが出演されるチャリティーショー「BRIDGE OF THE RAINBOW2021×FIVE SENSES 1st.Performance」の詳細はこちらでご覧いただけます

 

 

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