さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは、電子機械メーカーの欧州拠点で活躍し、帰国後は国際事業部や営業統括本部などを経て2013年からインド・バンガロールにある現地法人で指揮を執る浦川明典さんです。
木暮 インドの前は欧州赴任も経験。
浦川 入社してから東京と仙台で5年ほど営業を担当し、海外事業部で欧州担当とアジア担当を務めたのち1996年から10年弱ドイツとオランダに駐在しました。日本に帰国してからも営業畑で太陽光発電や電気自動車に携わり、8年ぶりの海外赴任として2013年からインドです。
木暮 昔はドイツ。
浦川 着任当時、欧州のお客さまからは弊社への不評ばかりいただいていたのですが、メールもネットも普及していない時代。着任から1年間は、問い合わせや要望には24時間以内に電話かファクスで回答すると決めました。通勤に15分しかかからない環境だったので、朝5時にいったん出社してから朝食をとりに帰宅し、食べ終わってから子どもを学校に送りがてらそのままオフィスで仕事。夕方に子どもを迎えに行って自宅で食事を取ってから再出社する生活でした。妻子を連れて赴任したので、いくばくかでも現地に足跡を残したいと思っていたこともあり、たまたま年齢や家族構成も近かった代理店の方々と家族ぐるみで付き合いました。そうなると関係が深まります。今でもクリスマスカードをやりとりしています。
木暮 自分なりのやり方を考えている。
浦川 2008年に新設された日本国内の営業部を預かる際に、かねて「営業現場の代理店スタッフが軽視されている」と感じていたので、思い切って販売代理店の若手営業マン数人をチームへ入れました。名刺や携帯電話だけでなく会社の機密情報もオープンにして自由に営業展開した結果、非常に良い化学反応が起こりました。当時のメンバーとは今でも忘年会が恒例ですし、その際は家族も連れていきます。
木暮 初めてお会いしたときから「フェア」という英語を体現されていると感じます。
浦川 若手のころ、駐米経験のある上司に海外で仕事をするための心構えを尋ねたことがあります。その方は「フェアであることだ」と。
木暮 その言葉に出会えてすごくうれしいです。世界で働くための大前提ですから。
浦川 インドでまず疑問に感じたのは、日本の駐在員の多くが現地の人を見下す傾向にあることです。リスペクトがない。もっと地元のお客さんと真摯(しんし)に向き合うべきです。現地の方と日本人との金銭感覚の違いに気付かず、値引き交渉することに不満を漏らす日本人もいますが、説得するのを自分であきらめただけなのに要求を飲まされたと思い込んでいる。こちらの論理的な説明に納得すれば、インド人とも合意できます。競合よりも3倍ほど値が張る安川製インバータを買ってもらいたい時は、データを示しながら導入するメリットを説明しました。インドでは交渉して双方が納得すれば、意外にすんなり商談が成立するんですよ。
木暮 海外赴任しても自宅と工場の往復だけという人も多いようです。
浦川 インドで国内出身者を代表に据えている日系企業は少ないです。私の後任はインド人に決めています。狭い業界なので「安川に行くと出世できる」という評判が広がり、良い人材が集まるんです。従業員は全部で250人くらいですが、昨年は3泊4日でスリランカに社員旅行したんですよ。若い人たちは海外旅行ができるのがうれしくてしょうがない様子でした。毎年恒例のバス旅行ですら大喜びですから。
木暮 初めて実施されたのですか。
浦川 赴任当初は南部と北部にある事務所が別々に国内を旅行していました。会社設立時の経緯が色々とあって、北インドの拠点と南インドの拠点で労働条件・手当・娯楽などに少なからぬ差があったんですが、これを徐々に合わせていき、会議やイベントなどがあるたびに相互交流を増やしながら、だんだんみんな仲良くなって、やっと本当の社員旅行が実現したという感じです。
木暮 考え方や優先順位の違いもあります。本社と現場の主張との「落としどころ」を見つけるのは難しくはないですか。
浦川 黒字化すると本社は何も言ってこなくなるんです。
木暮 本社も現地も同じように説得し、理解を積み重ねて推し進めた結果が黒字。
浦川 弊社はインドでは日系企業の顧客は少ないです。インドへ進出している日本のお客さまへ本社がわれわれに依頼してくる事はほとんどないです。
木暮 完全に現地企業としてインド企業に対して結果を出している。
浦川 現地の代理店は技術のレベルが高く、信頼がおける人たちばかりです。原則は彼らを通してのビジネス展開です。インド法人の理念の大きな柱が「社会貢献」です。「省エネ製品による電気事情への貢献」と「自動化の推進による労働環境の改善」、これが1つ目です。2つ目は「代理店の利益拡大による彼らの雇用創出」。これが代理店販売を原則としている理由です。3つ目は「寄付活動」で、利益の2%を充てています。障がいを持つ子どもたちが通う学校にスクールバスを寄贈したり、家庭内暴力から逃れてきた女性たちの就労支援もしました。喜んでもらえたようで、あいさつに行ったら若い女性陣に囲まれていささか焦りましたね。実は安川電機には創業の精神というものがあるんですが「産業を興して国の恩に報ゆる」という言葉が志として残されているんです。
木暮 貢献活動は内容を毎年決めているようですね。
浦川 社内の委員会が社会貢献活動や懇親行事の内容を決定しています。私が何か言うとそれが結論となり、皆さんが意見を言わなくなりますから。インドの慣習・文化・価値観に関しては私は部外者です。現地に判断してもらった方がいい。
木暮 すごく忠実な方ですね。創業の志を実践し続けていて素敵です 。
浦川 よりどころがあったほうが人間はやりやすいですから。私の場合はそれがたまたま創業者の志だったということですね。
木暮 フェアであること以外に大事にされていることは?
浦川 「同じ人間だ」いう気持ちが根底にないと。見下しても卑下してもだめ。対等に話すことです。異なるバックグラウンドがあることを意識し、感謝の気持ちを持った上で接するようにしています。こちらの要求だけでなく、その実行期限まで確認して相手と合意することが大事だと思います。
木暮 相手が分かるまでが意思疎通。基本的な事を当たり前に。
浦川 やはり正攻法が一番です。楽をしてビジネスをしようとするのではなく、相手の立場をまず考えてからの対話が大事です。
木暮 自分に何ができるんだろうというのは最近考えるようになりました。海外で活躍されている人もいる一方で、現地スタッフの活用に頭を悩ます人もいます。
浦川 言葉にも気を付けたいですね。「インド人は使えない」ではないです。日本人も含めて使えない人間はどこにでもいますよね。(おわり)