【第40回】「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは15歳で交換留学生として初来日したのがきっかけで日本に興味を持ち、現在は東京で行政機関向けの政策提言の助言や企業のPRコンサルティングなどを手掛ける「パルテノンジャパン」の代表取締役社長、アレン・パーカーさんです。

 

 

木暮 高校生の時に来日した経験がおありですね。日本と出会うきっかけは?

アレン 入学した地元の私立中学の選択外国語が4種類もあり、その中のひとつが日本語。当時は12歳で日本に関する知識は全くありません。ほかの3言語には興味が湧かず「まあ、面白いんじゃない?」といった消去法に近い考えでした。選択科目に日本語が入っていた背景として、出身地の米南部テネシー州が日本企業の誘致に積極的だったことがあったようです。

木暮 日本語の成績はどうでした?

アレン いやぁ、良くなかったですね。ひらがなとカタカナの存在にたじろぐ間もなく、漢字は1万字以上もあると知ってぼうぜん。日本語に懲りて高校は地元の公立校へ進みました。ところが、その高校は岩手県遠野市の高校と姉妹提携を結んでいて、交換留学制度があったのです。

木暮 日本語は勉強していましたものね。

アレン 選抜された学生で日本語が分かるのは私だけ。自分だけの特技がある喜びに感動しながら訪問した日本には、自分の全く知らない世界が広がっていました。それまでゼロだった日本語への学習意欲が一気に湧くようになりました。高校卒業後はそのまま日本の大学に進みたいと思い、17歳の時に来日し、都内の大学に入学して1年後、当時興味のあった経営やマーケティングが学べる上智大学に転入しました。在学中からウェブサイトの制作をしており、日本での新卒採用を目指しました。就職フェアに足を運んだりもしましたが、魅力を感じられず2010年に起業することにしたのです。そのころ結婚を控えていたのですが、双方の親から「どこかに就職しなさい」と言われてしまいましたね。

木暮 国内企業に勤めた経験もあるそうですね。

アレン 東日本大震災の翌年です。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を導入しようとしていた企業を支援していた縁で国内最大のインターネットマーケティング企業のお世話になりました。会社で唯一の外国人社員だったそうです。その後、知人が立ち上げた企業に幹部として加わり、行政機関との関係構築や外資系企業をサポートする仕事に5年携わりました。

木暮 日本では「ロビー活動」になじみが薄いかもしれません。

アレン ロビイストというと何か悪いイメージを持たれがちですが、実際は地味な仕事です。外資系企業もビジネス上の許認可獲得のため、公官庁とやり取りをする必要があります。そこでどのようなメッセージを出せば政府が動いてくれるかを我々が助言するわけです。

 

 

木暮 なかなか奥深い領域ですね。日本でビジネスをする難しさはありますか。

アレン 徹底的なリサーチが必要ですね。あまりストレスは感じません。会社を作った理由に企業が行政機関と良好な関係を築いていく「ガバメントリレーションズ(GR)」の重要性をアピールしたいという気持ちがありました。「政府」「企業」「市民社会」という3者間での円滑なコミュニケーションができれば、お互いにメリットがある。それには「仲人(なこうど)」が必要だと思っていました。

木暮 国内外で区別することもなく、これが自分の仕事だと感じたわけですね。

アレン そうですね。外資系だけでなく最近は日本企業でも渉外部分がGRに取り組んでいます。よくあるのが陳情や要望書。実は行政機関もデジタルエコノミーの推進を目指す中で企業の声を聞きたがっているのです。企業側には政府への遠慮があるようですが。

木暮 政府の取り組みの中にも民間企業の知恵が生かせそうなものもありますね。

アレン 縦割りでやってきた歴史があるわけですが、横断的な動きがあるといいですよね。

木暮 プロジェクトマネジメントで支援する場合も、企業にも各部門に横串で刺すような動きが少ないように感じます。

アレン どちらも似ていますね。勢力争いよりもお互いに協力する心が持てるかどうかでしょうね。

戦略的に伝える

 木暮 いろいろな事情がありながらも、相手にとってのメリットが伝わるとやりやすくなりますよね。相手を説得するコツがあるのでしょうか。

アレン 結果にフォーカスすることでしょうか。「この課題を解決しないと良くないことになる」というリスクを伝える。苦い薬を飲ませる役回りですね。

木暮 外部から来たコンサルタントに対しては、協力的な人たちがいる一方で、懐疑的な人もいませんか。

アレン 行政機関の場合は二極化するかもしれません。その場合はプロジェクトを動かしている「キーパーソン」を探します。どこに働き掛ければよいか、どこから攻めるか。ステークホルダー(利害関係者)相関図を作って「窓口」を探すのです。

木暮 人間関係を把握する作業ですね。周囲に誰も支援者がいない段階ではとても有効です。

アレン その後はステークホルダーと情報戦略・戦術を練る作業に入ります。プロセスを考えたり、メッセージハウスを作ったりします。

 

 

木暮 メッセージハウスとは何ですか。

アレン メッセージ戦略を家の構造物のように図解する手法です。一番伝えたい「トップメッセージ」が家の屋根の部分で、それを支えるメッセージの柱がいくつかあるイメージ。相手に「どう思われたいか」を示す。これがあれば、いつでも伝えたいメッセージに立ち返ることができます。

木暮 説得方法を考えている。実践されている納得感がありますね。

アレン PR(ピーアール)は「広報」。表記が似ている「広告」とは違って商品を売りません。モノを売るための「マーケティング」とはそこが決定的に異なります。緊急事態が発生した時のメディア対応「クライシスコミュニケーション」も広報のひとつですね。

木暮 相手の話はよく聞くけれども外国人に対して臆病だったり、シャイだったりする人もいます。そういう内気な人はどうすればいいですか。

アレン 外国人と商談する際は、べらべらとしゃべる必要はありません。話していないことがむしろ相手にとっては自分のことを大切に聞いてもらえているという認識になる。それも戦略だと言えます。限られたコミュニケーション力でどう訴えるか。自分の言語能力を「逆算」してアレンジする。

木暮 具体的なアドバイスです。メッセージハウスも自分が使える英語で作ればいい。少ない語彙(ごい)でも内容が的を射ていれば伝わりますからね。

アレン 商談は英会話のためにするのではありません。勝つためですよね。

木暮 ちゃんと話せないといけないと思っている人には自信になる言葉です。

アレン 英語が流暢ではなくても日本企業はすでに海外に出ています。我々は外資企業のサポートで得たノウハウを生かし、日本の経営者が自分の思いを堂々と語れるようになるトレーニングも提供しています。

木暮 コミュニーションがうまく取れないのは時間のロスやストレスにつながりますよね。

アレン 機会損失でもあります。

木暮 そうですね。コミュニケーションの悪さで時間がかかる日本企業も多い。

アレン 決断を先送りする思考がありますよね。「決断しないという決断をしている」というリスクに気付いていない。外資企業ではCEO(最高経営責任者)が感覚的に決定している場面もあるようですが、誤解を恐れずに言えば、我々コンサルタントは彼らが雇う「保険」のようなもの。仮に経営者が判断を誤っても「コンサルの助言だった」で済む。ですから、コンサルタントはクライアントに遠慮なく進言する責任があります。上下関係を気にしてはいられません。信頼してもらうためには言うべきことは責任を持って言う。正しいと思ったことは繰り返し伝える。いつも皆さんに納得してもらえるとは限りませんが、業界一おせっかいなコンサルタントを自認していますから。(おわり)

 

 

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