【第24回】「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは、大阪の弁護士法人でキャリアをスタートし、現在は香港の法律事務所で活躍する弁護士の増山健さんです。

 

 

 

 

木暮 大阪で弁護士活動を始められたそうですね。

増山 2015年に弁護士登録し、業界大手とされる事務所で企業法務や知財を中心に活動しました。大阪という土地柄なのか、法律相談にうかがった企業経営者の方からは打ち合わせ直後に「嫁が逃げてしもたんやけど先生、どないしよ?」と突然、身の上話などを打ち明けられるなど雑多にもまれながら仕事をしていました。4年ほど実務を経験した頃、もっと仕事の幅を広げたくなり、香港にある大学のロースクールに留学しました。法学修士号を取り、20年の夏から現地の法律事務所で働いています。

 

木暮 多様な相談は大阪ならでは?

増山 中小企業の割合が高く、大阪はオーナー社長の裁量が大きい。いかに会社の年商が増えようが、泥臭くて人間臭いワークスタイルではあると思います。

 

木暮 大阪では鍛えられますね。新人の頃に赴任しました。

増山 弁護士に対する心理的な距離感が近く、クライアントは積極的に本音で話してくれます。仕事ぶりに不満があれば、はっきり「ダメだ」と指摘される一方、満足されている場合はストレートに褒めてもらえますし、「今度一緒に食事でも」と声を掛けられることもあります。やる気が湧きますね。

 

木暮 素直に褒めたり怒ったりしてもらえる体験は貴重ですね。大阪では海外と関わる案件はありましたか?

増山 初めて担当した刑事事件の被疑者が外国人で、国外へ強制送還されそうな状況になった際に、私が意見をはっきり伝えていないのを指摘されたことがあります。自分の「日本的な部分」を感じました。当時は新人で自信がなく、曖昧な表現を使ってストレートな言い方ができていなかったのです。今は多少の度胸も付き「一生懸命にやっていて間違ったらそれは仕方がない」と思えるようになりましたが、海外に行って仕事の幅を広げたいと思ったのも、そうした苦い経験があったからです。

 

木暮 拠点を香港に。

 

増山 法曹関係の留学先は米国が圧倒的に多く次も英国で、アジアといえば中国大陸です。自分はあまのじゃくなのか、他の人とは違う所に行こうと思いました。個人的な動機ですが、父が香港出身だったのも理由です。母親は日本人で、私も日本語が母国語、日本の生まれ育ちですが、香港に自分のルーツがあるのが気になっていました。

 

木暮 実際に住んでみてどうですか。

増山 香港自体には、なじみがありました。親戚がいるため、子どものころから家族で来ていました。田舎に帰る感覚です。当時から無理やり連れ出されていたせいか「言葉が通じなくても何とかなる」という感じで緊張感もありませんでした。両親のおかげです。子どものころに見ていた香港は中国への返還前後で、映画で見るような雑然としたアジアの国際都市といったイメージ。今は中国大陸の影響が強くなっている印象があります。

 

木暮 人権をめぐる抗議運動や新型コロナウイルスなど、いま香港にいられるのは絶妙なタイミングですね。

増山 中国大陸では新型コロナはかなり収束しているようですが、香港との間での人の往来には制限があります。香港が直面しているのは「第4波」だといわれています。コロナ前は当たり前のように毎週末、数万人規模のデモが実施される状況でした。通学していた大学がデモ隊と治安当局が衝突した現場になったのは衝撃的でした。

 

木暮 市民デモへの当局の対応は法律の観点からどう見ていますか。

 

増山 生きた教材です。デモに参加して逮捕されたり、当局に不当に扱われたりしていないかなど、法律が絡んできますし、法律の目的や意義などについて日々考えさせられました。

 

 

香港で活動する増山さん=本人提供
香港で活動する増山さん=本人提供

 

 

木暮 人びとの様子はどうですか。

増山 デモが盛んな頃は自分の考えを表明する人が多かったのですが、この1年で人間関係が分断されてしまいました。職場や学校で意見が対立して大げんかに発展することが増えたりして、微妙なトピックスは避けられつつある感じです。

木暮 悲しいですね。香港のクライアントへの接し方で気を付けていることはありますか。

増山 話し方を工夫しました。香港の人は「せっかち」な人が多く、時間の無駄というものをとにかく嫌います。レスポンスの良さが重要です。大阪人とも通ずるものがありますね。細部についてはあまり気にせず、弁護士に任せるというスタンスです。こちらに裁量がある分だけ、ミスをすれば自分の責任ということになります。

 

木暮 微に入り細をうがつ、という姿勢は日本では評価されます。海外だと逆効果も。

 

増山 日本でいう「ひと手間」が香港人にとっては不興を買うことにもなりかねない。また香港の人と接していて感心させられるのは「相手への関心の示し方」がとても上手いことです。私の印象ですが、海外で外国人と知り合いになろうとする日本人が話す内容は「自国の紹介」になりがちです。海外に行ったら、現地で有名なことなど、その国の話をした方が良いと思います。中国に行ったら中国の話です。香港の人は相手が日本人だと「自分と日本の関わり」について話そうとします。「日本に行ったことがある」「和食が好き」といった具合に相手が話しやすそうなテーマを掘り下げるのです。「お金が大事、自分が大事」という実利主義的な人も多いので、実はうわべだけかもしれませんが、自分の国のことを聞かれて悪い気はしませんよね。

 

木暮 気を付けたいです。日本と香港の人が求めるものが両方分かっているのは強みですね。日本にまつわる相談も多いと聞きます。

増山 現地にいる日本人弁護士ということで、法律相談でも言語的なハードルがないので安心感を持たれやすいのかもしれません。もめごとの時だと中国語では伝えづらいニュアンスも分かります。日本と現地弁護士の橋渡しをする、法律関係専門の通訳をしている感じです。今後は香港の現地クライアントも増やしたいと思っています。商文化は日本と違う面もありますが、香港の人は契約事項についてはきっちりと守ります。

 

木暮 オンラインで海外とやり取りする機会も増えています。香港で大阪からの依頼に対応できますね。

 

増山 そうですね。何のハードルもありませんし、やらなあきませんね。(おわり)

 

 

 

 

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