【第9回】「シナジーをいかに引き起こすか」髙谷晃さん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは大手自動車会社に入社後、カーデザイン部門で活躍、退職後はコンサルティング企業を経て、現在は自身のデザイン会社を経営する髙谷晃さんです。

 

木暮 ご自身の肩書は?

髙谷 クリエーティブ・プロデューサーであり、KTXデザインの代表です。社長業を切り盛りする一方で、お客さまに寄り添う1人のクリエイターであり続けたいです。

 

木暮 あくまでチームの一員として、ですね。分かります。私もプロジェクト管理の仕事を自分で切り盛りしていた時期は、会社を運営していたという意識がなかった。最近は会社のこともやりたいと思うようになってきました。会社を経営する難しさはありますか。

髙谷 SUBARUという大企業に就職して数年間は夢中でデザインに没頭できましたが、廻りが見えるようになると、自分がデザインしたクルマを買ってくれた人については何も知らないことに気付きました。 もっと身近で「人を笑顔にしたい」という希望をかなえるため、そしてクリエイターである自分の腕を試したくて、挑戦の意味も込めて独立しました。 今は、お客さまに寄り添い、お客さまとともに汗を流したいという気持ちで日々取り組んでいますが、やはり企業の中で降ってくる仕事をこなしていくのと、自分でゼロから仕事を創り出して会社もドライブさせていくのとでは、雲泥の差なので日々難しさとの戦いです。

 

木暮 クライアントと一緒にやりたい、という感覚は私もあります。

髙谷 それまではクリエイティブな感覚だけで仕事をすればよかったのですが、商売にも目を配らないといけなくなります。独立する前には上司から「ビジネス筋肉をつけろ」と叱咤されていました。幼少期〜学生時代と美術の道を突き詰めてきたので、見積書や契約書と格闘することになるとは思ってもいなかったです。ただ、前職で修行した7年間がなければ、今の自分はありません。独立するのは、豪華客船から手漕ぎボートに乗り換えたイメージですが、仕事の達成感や充実感という意味での大きさは図り知れません。

 

木暮 いい話ですね。

髙谷 不安はありますが、あえて楽しんでいきたいですね。

 

木暮 客船のたとえは良く分かります。私も大手銀行で社会人をスタートしましたから。仕事と満足感のバランスですよね。

髙谷 独立するまでは自分が関わったプロジェクトの金額すら知らなかった。お金に換算するのが全てではありませんが、「自分の対価とは何か」ということに気付かせてもらえたのも大きかったです。

 

木暮 デザイナーは「思い」を見えるようにする仕事。自分の「好き嫌い」だけではなく、人間そのものの力量が問われる職業だと思います。

髙谷 独立後はオンとオフの差が少なくなり、四六時中デザインのことを考えています。デザインには「意識の美」と「無意識の美」という2種類があると考えています。前者は調査や戦略などを駆使したロジカルな「美」。後者は思いつきやひらめきによる直観的な「美」です。 よく友人やお客さまからデザインのアイデアはやっぱり「降ってくるの?」と聞かれますが、個人的には全く無の状態からアイデアが浮かぶ、ということは信じていません。今までの多くの経験や多彩な知識があるからこそ「降ってくる」のだと思います。 今までの経験上で思い返してみると、「無意識の美」のほうが、自分としては魅力的なデザインであることが多いように感じます。

 

木暮 直観は大事ですが、何もないところから発想は生まれてこないですよね。デザインは実用的であることが最も大事だという見方があります。問題解決のためにデザインはどのように機能するのでしょうか。

髙谷 「デザイン」をどう捉えるかでしょう。顧客のデザインイメージと自分のデザインイメージとの間で葛藤は日常茶飯事なので、常に顧客とはお互いに率直な意見をぶつけ合うことを大切にしています。そういった中で、重要なのは「行為のデザイン」を考えることです。 プロダクトやグラフィック、IT、ファッションなど多くの分野で多くのデザインが溢れるこの時代に、唯一共通なことは「人の行為」がそこには存在することだと考えています。 ですので、問題解決のためにデザインを効果的に機能させるには、「人の行為をデザインする」 という考えを常に織り込むようにしています。 そして、様々なデザイン手法がある中で、自分の役割は「廻りの価値を束ねてゴールに導くこと」だと思っています。 職人気質で信念を曲げないアーティストは、良くも悪くも影響力がありますが、自分はデザイナーなのだという意識が強いです。

 

木暮 いいですね。社是にしたいぐらいです。

髙谷 デザイナーはいろんなことに興味を持ち、好奇心旺盛であることが大切と思っています。1つのことを100%突き詰めるより、10のことを50%でもいいから引き出しを拡げることが魅力的で新たな価値を創造できるはずです。別個に存在するものをつなぎ合わせることで新しいものができることもあります。全く新しい価値である「イノベーション」には、既知の考えを改良するという「リノベーション」の要素も必要だと感じています。常に自分にアンテナを張って人脈を広げたり、新たな知識や経験を得ながら、方程式では生み出せない「プラスアルファ」が出るようなデザインを考え続けています。

 

木暮 多様性が新しい価値を生むとの指摘は同感です。以前参加したプロジェクトは、メンバー構成が企画畑出身の人間からデザイナー、エンジニアまで多士済々で、寄り合い所帯のようだったのですが、成果物は驚くべき出来栄えになりました。1+1が「100」になるようなイメージです。

髙谷 映画にもなっている「アベンジャーズ」がまさにそうですよね。

 

木暮 プロジェクトのメンバーが国際色豊かになっている場合、相手を説得するコツも違ってきますか?例えば日本人はチャートによる図解を好む人が多いとか。

髙谷 多いというか、シンプルな図解の方が文字だらけのものより単純に分かりやすいですよね。ただ、概念をシンプルなダイアグラムで分かりやすくまとめるのは実は難しいんです。 海外展開の際に、プレゼン資料を作る場合は単に翻訳のニュアンスだけでなく、地域特性や文化による捉え方の差も考えて作成することが大切です。例えば、カラーリングも日本国内では問題なくても、ある国では全く違う意味になってしまうこともありますし、中華圏といっても中国大陸と台湾では文化が違うことも認識して進めなければいけませんからね。

 

木暮 チームとして動く場合は特に。

髙谷 外国人と仕事をする機会はありますし、お国柄が出るように感じます。東南アジアでは時間厳守が苦手な反面、仕事へのバイタリティにあふれる人が多い。欧米では、自分に対する自信にあふれる一方で、挫折するとなかなか立ち直れない人もいましたし、基本的に楽観的なのに、案外と頑固な一面をのぞかせる人など多彩な人たちと関わってきました。

 

木暮 メンバーをどうまとめますか。

髙谷 確たる答えがあるわけではないですが、統括責任者として多彩な個性の手綱を捌くために、チームとしてシナジー(相乗効果)を最大化できるよう徹底的にディスカッションするなど試行錯誤を繰り返しています。

 

木暮 本質ですね。

髙谷 シナジーを重視していると、チームのメンバー対して不満に感じることもなくなります。 むしろ、そのシナジーを生み出せない自分の力量が未熟なのだなと痛感します。なんにせよ、様々な国の方々と仕事をすると「刺激的」の一言です。

 

木暮 チームを率いる自身のことを「猛獣使いです」と紹介する著名デザイナーもいましたね。クリエイターの仕事は案外、メンバーを束ねることかもしれません。

髙谷 日本では会議そのものが偏重されているように感じます。正直に言うと、目的が見えない会議も多く、結果よりもいわゆる「やった感」を得たいだけなのではと、首をかしげることもあります。当たり前ですが、社内でのプロジェクト会議やお客さまとの打ち合わせをする時には、目的と成果を常に考えて行なっていますね。 デザインの現場では、その場でデザインについて深く話したり、時にはラフ絵を描きながらやりとりすることが多いです。

 

木暮 デザインは変わっていくのでしょうか。

髙谷 デザインは、常に新化・進化・深化・真価していくでしょうね。というか、しなければならない。日本製品は根強い人気があり、デザイン面も機能面も高く評価されています。日本人が気付いていない「日本の良さ」は様々な分野でまだまだありますし、デザインにおいても新たな発見はあると思っています。(おわり)

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