【第1回】 「アドレナリンが出ている時が大事」太田悠介さん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。第1回のゲストは海外進出を支援するコンサルティング会社などでの経験を活かし、公認会計士として活躍する 太田悠介さんです。

 

木暮 2011年に「これからはアジアだ」と単身乗り込んだそうですが、ご苦労も多かったのでは。

 

太田 最初の頃は外国人だからということで不利なこともありましたが、ネガティブに考えていてもしょうがないな、と思っていました。自分ではどうしようできないことはあきらめ、できる人と動けばいいので、悩むことは少ないですね。行動しないと結局、解決しませんから。

 

木暮 海外のスタッフと仕事が思った通りに進まないと悩む日本人も少なくありません。5年間もいらした中国ではどのようにお仕事をされたのですか。

 

太田 最初に成果物に対する期待値を下げました。現地で「周りが働かない」などとイライラする日本人もいますが、それでは自分が疲れるだけ。言葉の壁もあるので、最初から100%を求めない。最初からうまくいくことなんてないですからね。こういう話があります。日本人は任された仕事を120%で仕上げて、次につなげようとする。欧米は要求通り100%で仕事を返す。中国の場合は一旦60%ぐらいの完成度で出してみる。必要ならば手直しする。彼らに言わせれば、「そうやって仕上げて70%でもOKがもらえれば30%分を得したことになって合理的」となるわけです。当時はそういう土地柄でしたから、あらかじめ期待を下げておく「期待値コントロール」が役立ちました。

 

木暮 腑に落ちます。インド人と働いた印象では、要求の30~40%の仕上がりなのでは、と感じることもありました。外国人と働くと、期待との現実のギャップにフラストレーションをためてしまう人もいます。

太田 どこにでも愚痴をこぼす人はいるものですが、何か夢中になれるものに打ち込んでアドレナリンが出ていれば愚痴は出ないものです。外国人の部下に暴言をはいてしまう人もいます。そうしたパワハラは、相手を見下して自分が優位に立つことでアドレナリンを出す行為だと思っているので無意味ですね。逆に言えば、誰かにアドレナリンを出してもらうためには、わざと馬鹿にされるような立場を作ることも有効なわけです。それで仕事がうまくいくなら「儲けもん」です。

 

木暮 面白い分析ですね。そういった見方はどのように身に着けたのですか。

 

太田 「それは何故?」という思考をよくします。事象に対し誰が得をするか、と考えるのも好きですね。中国にいた頃は所属していた会社の脂が乗り始めた時期でした。アジアで拠点拡大を任された時には、少額の給料でビザ申請から口座開設まで何でも一人でやっていました。「儲ければ会社側はちゃんと返してくれる」と思っていたので、負担には感じませんでした。中国や台湾の情報は日本にいても入ってきますが、真偽の見極めが難しいのです。海外進出に関するコンサルティング業務に関しては、そういった悩みや不安を解決するサポートをすればよかったわけです。

 

木暮 そうですね。私の周りにも素晴らしい中国の方は大勢います。ことさら悪い情報を強調するマスメディアの影響もあるかもしれません。

太田 日本にはまだアジアの方を軽視する人もいるように感じます。そうした偏見は捨てなければいけません。私は国籍や肩書ではなく「この人は何ができるのか」を重視しています。どこの出身であろうが、その人をリスペクトします。

 

木暮 日本語で「お互いを認める」という意味での「リスペクト」ですね。弊社も大切にしている心構えです。誰とでもフラットに付き合える関係です。

 

太田 自分の殻に閉じこもり、行動を起こしたがらない人もいますが、私はリスクを取ればその分のリターンもあるという「ボラタリティ(変動性)」が高い人生の方が楽しめるタイプです。何事も楽しむと見える景色が変わります。

 

木暮 太田さんのように、ひと付き合いがうまい人は上手に世間を渡り歩いています。

太田 私は自分を俯瞰で見るようにしています。上からの視点で自分を操作している感じです。私自身は変わりません。

 

木暮 国籍などにこだわらず、「オオタユウスケ」という人間としてブレずに相手と向き合う、ということですね。

太田 外国人と仕事で対話する時に「日本人とは?」といった一般論を語ることには意味を感じません。自分の周りとは話題にすることもないです。そんなテーマは議論のゴールが見えないことがすぐ分かるので、別のトピックに替えるようにしています。

 

木暮 私の場合、頼まれてもいないのに日本人を代表して弁解している自分に気付きます。

太田 日本の大企業との仕事は時間がかかることがあります。その場合、日本人と一緒に働く外国人の「熱」を冷まさないよう、その場に応じた説明や短期的なプロセスを考えることが重要です。

木暮 仕事では、アドレナリンやモチベーションを重視されているからですか。

太田 ワクワクして熱狂している時こそ人は成長し、仲間意識も生まれるものだと思います。過去の経験から言えば、楽しい時の方が印象に残っていますね。その瞬間が来た時は熱を冷まさないようにすべきですね。

 

木暮 至言です。何かに熱中して成功したことがあるわけですね。

 

太田 中学生のころ、麻雀に没頭したのが原体験なのかもしれません。どうやったら負ける可能性を減らせるか、を考えた結果、対局中も自分の手ばかり見ないことが大事だと気付いたのです。それからは卓を囲んだプレーヤーの様子を少しでも観察しようと、自分の役を並べず覚えられるようにしたり、相手の牌の置き方の癖を突きとめようとしたりして特訓しましたね。

 

木暮 何かに熱中したことがある人は強いです。

太田 やる気にさせるという意味では、その人が英雄になれる「ヒーロースポット」をあえて作ってみるのも手です。例えばキャビネットの前に座っている新人には上司から、あえて書類の保管場所のような簡単なことを聞いてみます。そこで「教えてくれて助かったよ」と言ってみる。何回か続くと「自分がその専門家なんだ、頼られている」と意識し、脳の片隅で常に考えるようになるかもしれません。そういった「エンジン」がかかるかを見ます。どんな小さなことでも構いません。子どものころ、親から止められても止めないほど何かに熱中した経験がある人は、スイッチを入れやすいように感じます。

木暮 国籍は関係ないですね。

太田 国籍問わずその人のモチベーション維持の方法がわかれば接しやすいですしね。男であれば求めるのは、金銭欲や権力欲、名誉欲などが多いです。モチベーションをつかんだら、それに応じてインセンティブを設定して、組織が同じ方向を向くようにすればいいのです。本心の欲望はそれぞれ違うかもしれませんが、結果として一体になれば全てが急成長していきます。

 

木暮 いわゆるマンツーマンでの対応ですね。会社を束ねるCFOとしては、組織とどういった関わり方をされていますか。

太田 会社の管理部を作る時は、組織の「インフラ」になることを意識し、それが会社の付加価値向上につながっているかを常に意識します。適時・適切・大量に処理できる仕組みです。みんなが気持ちよく「適時・適切・正確」に仕事ができるか。また、各自にどういった特殊能力があるかを知るためにコミュニケーションを取り、チームとして最大限の力が出せる状態をキープすることが重要だと思っています。会社は一人で仕事をするわけじゃないですから。(おわり)

 

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