【第2回】「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは高校卒業後、大阪で起業し、現在はストリートファッションを発信する人気セレクトショップ「ファイヴスター」を経営する林原誠さんです。

 

木暮 22歳で事業を始めたそうですね。

 

林原 コンピューターの専門学校に進学するために18歳で大阪に来たのですが、あまりそちらには興味がわかず、夜はダンスが踊れる有名クラブでアルバイトをしていました。そうする中で、ヒップホップやレゲエが好きになり、DJみたいなこともしていました。当時はジャマイカ音楽などレコードで音楽情報は簡単に手に入る一方で、アーティストがジャケット写真で着ているようなレゲエファッションの店は大阪ではほぼ皆無。知り合いに頼んで海外で買って来てもらって集めていましたがそのうち、「これ日本でも欲しい人がいてるんちゃうか」と思うようになりました。

 

木暮 音楽からファッションにつながるわけですね。

 

林原 1年間の大工のバイトで貯めた資金と両親からの借金を合わせた600万円ほどを元手に賃貸マンションの一室に店を構えました。ノウハウなど全くありませんでしたが、「何とかなるんちゃうかな」と。

 

木暮 自分でニューヨークへ買い付けに行くとなると、言葉の問題はなかったですか。

 

林原 実は今も英語は大してできません。だまされたこともあったかもしれませんが、どうやってだまされたのかすら分からない。言葉については「商売だから何とかなるかな」というのが基本です。

 

木暮 構えたお店はDJイベントのフライヤー(チラシ)を置くなど、当時では画期的だったとか。

 

林原 確かに少なかったかもしれません。音楽イベントの協賛などもしました。店の経営については、DJのバイト時代にできたアーティストの仲間たちに助けられました。彼らから頼まれて、僕が彼らの衣装を仕入れる。彼らを支持するファンやヒップホップに興味を持った人が口コミなどで来店してくれる。現地最新ファッションの調達と集客とでお互いに助け合った感じです。音楽業界とのつながりは今でも大切にしています。

木暮 経営は順調でしたか。

 

林原 何度もつぶれかけましたよ。今もそうですが、ファッション業界は厳しいんです。

 

木暮 立て直しはどのように?

 

林原 耐えるしかありません。FIVESTARには音楽シーンに強いという「色」があり、おいそれとスタイルを変えるわけにいかない。古着も販売してみるといった「逃げ道」がないんです。そうしているうちに2000年ごろから「EVISU(エビス)」など日本発のジーンズブランドも米国で支持され始め、国内外の流行をミックスさせた僕らなりの商品提案ができるようになりました。特徴の出し方については、良いタイミングで切り替えられたと思います。ブランド作りは時間がかかります。良いかどうかは分かりませんが、「逃げなかったから今がある」と思っています。

 

木暮 創業から30年近くたった今もご自身が仕入れに関わっていらっしゃるとか。

林原 単に好きなのです。社員の提案も聞きますが、基本は自分が好きなものを仕入れるようにしています。ストリートファッションにはトレンドがあり、当時はストリートから生まれる着こなしがあります。現地に行っていても、1カ月間のブランクがあるとトレンドが変わるほどです。そうして目まぐるしく変化する流行をいち早く日本で紹介するのを売りにしていました。

木暮 現地で「宝の山」を見つける感じでしょうか。

林原 そういうのが楽しかったです。日本の展示会やショールームでは分からないものを感じるために現地に行くわけです。店頭に並べた商品を見たお客さんが「これヤベぇ」って言ってくれるのが嬉しかった。

 

木暮 現場の空気感が好き、というのは分かる気がします。コネクテッドカー開発の仕事で米国に行ったときは、現地のエンジニアから生の最新情報を聞くのが本当に楽しかったです。

林原 自分でやるのが好きなのです。なかなか厳しいとは思いますが、いつまでも続けたいです。

 

木暮 現地で発注して日本で事業を展開する難しさは?

 

林原 海外のメーカーは納期を守らなかったり、検品が十分にされていなかったりと、いろいろと違いはあります。仕入れのために50%の保証金を入れたのに予定より3カ月遅れで納品されることもありますが、事業にはマイナスかもしれないと思いつつ、注文のキャンセルは極力しないようにしています。値引き交渉もほとんどしませんし、請求書が到着した翌日には送金するようにしています。

 

木暮 そんなに早く?

林原 こちらは支払いしか太刀打ちできるところがないんです。入金の期限が1カ月後だろうと支払いを早く済ませば相手は「ええ奴やな」と信用してくれます。どれだけ早く支払うかが勝負。チャラチャラしたイメージを持たれがちなヒップホップですが、そこはしっかりします。「金払い」さえしっかりしておけば何とかなると思っています。結果的にプラスになったこともありますし。 それと、初めてデビューするブランドでも、いいと思ったら発注するようにしています。日本で人気に火がついても、彼らは初めて取引してくれた日本の店として恩義に感じてくれます。

木暮 ブランドの発掘もするには、常にアンテナを立てておくことが重要ですね。

林原 「当たり」はほとんどありません。半分は「ハズレ」かもしれないですね。

 

木暮 英語が得意ではないのにニューヨークへ買い付けに行くなど、外国に対する垣根が低い。

林原 言葉が分からない相手でも「好き」が伝われば何とかなります。自分もそうですが、洋服好きは食事を我慢してでも気に入った服を手に入れたいもの。狭いジャンルかもしれないですね。大阪の繁華街から外れた場所にある店にわざわざ足を運んでくれる人や、子育てがひと段落した年代の方も来てくれます。最近では20歳になる息子が友達から「FIVESTARって知ってる?」と聞かれるそうです。

 

木暮 父親が若者だった頃から今も同じ人が仕入れをしている店は珍しいですね。

 

林原 一緒に働くスタッフも勤続20年ぐらいが多いです。最近は「結婚ブーム」なのか、家庭を持つメンバーが急に増えました。そうした子たちの家族も考えて、少しでも給料を増やしていきたいですね。(おわり)

 

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