【第22回】「伝わる話題を探す」石井陽介さん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは、就職後に医学の道を志し、現在は診療所の運営に携わるほか、医療機器の販売など手掛ける株式会社ノードグラフを経営する石井陽介さんです。

 

 

 

 

木暮 大学卒業後は食品メーカーに。

石井 もともとメディア志望だったのですが、大好きな映像制作は趣味にとどめました。漠然と飲食店を開きたいと思っていたこともあり、食に関する経験を積もうと企業に就職しました。

 

木暮 1年で退職。

石井 実家が祖父の代から精密機械の販売を営んでおり、ぬるま湯で育ったという意識がありました。大学を出た後はあえて厳しい世界に身を置きたいと覚悟していたつもりでしたが、就職の相談をした大学の恩師から「本当にそこでいいのか」と何度も聞かれていたことを思い出しました。名の知れた大手企業で入社1年目から貴重な経験もさせてもらえたのですが、「体育会系」的な企業風土が自分には合いませんでした。

 

木暮 医療業界に方向転換。

石井 その後、外資系のコングロマリット(複合企業体)で4年働きました。刺しても痛くないほど極細な注射針を作り上げる日本の職人さんと知り合い、「海外展開も望める上、ニッチな商材になる」と感じました。

 

木暮 目の付け所が良かった。

石井 歯並びの治療をする審美歯科や美容整形クリニックなどでも注射針を使います。1本100円という価格は相場より高いのですが、治療費の一部であれば、患者側で負担できる額です。医療機関には、痛みを和らげる「患者さんにやさしい病院」という宣伝文句で売り込み、予想以上に売れました。人生には波がありますが、商品が支持されていると仕事が楽しく感じます。

木暮 その後、医師も目指したとか?

石井 知り合った美容整形外科の先生と馬が合い、一緒に仕事をしたいと思ったのがきっかけです。人当たりがよく、苦労を見せる人ではなかったので「自分も医師になれるのでは」と思いました。編入試験に臨んだため、受験科目は生命科学や医学英語などと少なく、小学生の時に好きだった理科を思い出しながら、1日10時間近く机に向かっていられました。人生で一番勉強した時期です。

 

木暮 苦労して入ったのに断念したのは?

石井 受験勉強を始めてから2年目でようやく受かりましたが、会社の仕事を任せながらでは学業が追い付かなくなってしまいました。両立は厳しく、医療予備校で「ここは地獄の1丁目」と言われた意味が分かりました。

 

木暮 企業経営に専念したわけですね。

石井 2011年の震災後、商材として扱っていた環境モニタリング装置の販売元が買収された影響で、輸入販売権を失いました。途方に暮れていると、海外の販売代理店の会合で知り合ったイタリア人から震災での安否を尋ねるメールが来ました。彼とはそれまで交流がなかったのですが、初対面でイタリア語会話のフレーズを披露してイタリア好きをアピールしたことを覚えてくれていたようです。そのメールがきっかけで、別の装置を手掛ける英国のメーカーが見つかり、事業提携にこぎつけました。

 

 

 

 

木暮 覚えてもらうのも才能。外国人にも自然に振舞える?

石井 ありがたいことです。学生のころから英語学習に抵抗はないのですが、大学受験で通った予備校時代に英語でディベートや議論を展開する力が足りないと感じました。外国人とは特に、日々の生活で議論の「ネタ」を見つけて、自分の意見を主張しなければなりません。

 

木暮 外国で黙っていると相手のペースになりがちです。

 

石井 美容クリニックを開設した当初、ターゲットとしていた中国人観光客の集客をめぐり、現地ブローカーとの「情報戦」に巻き込まれそうになったことがあります。富裕層は情報を多く入手できても、真偽を確かめられないことがあります。治療費に関する誤情報が流れるのを食い止めたり、ウエブ上に公開していた講義の内容が歪曲されたりするなどの被害を防ぐため、顧客に自分の立場をどうアピールすべきかを学びました。信頼できる中国人の事業パートナーと知り合えていたのも大きかったです。彼は日本の大学を出た知日派で、約束を守る人でした。

 

木暮 商材が多様ですね。

石井 ニッチ(すき間)で勝負したい、というのはブレていないつもりです。当社が扱っている植毛機などのニーズがある、いわゆる「コンプレックス産業」も市場規模としては大きくありません。「ニッチの中のニッチ」を念頭に、選択と集中で事業を行っています。

 

木暮 当社もニッチです。IT開発で担当者の調整に回るコーディネーターのような仕事をしたのが創業の出発点でした。

石井 動きながら考えるタイプで、失敗してきたことに気づかないだけかもしれません。イタリア人からもらったメールがきっかけで、英国のメーカーに販売権の直談判に行ってしまうのもそうですね。

 

木暮 着眼力や情熱は大事。

石井 一極集中というか、一瞬で力が出る時があります。

 

木暮 海外製品の代理販売業は実現するまでに、担当者との交渉も含めて実際の行動に移すのが難しい。

石井 英語の方が自分らしく自然に話せると感じることもあります。日本語は分かりにくい表現もありますが、英語は操作マニュアルを見てもシンプルに説明されていて理解しやすい。日本では商談というと「浪花節」的な、義理人情に訴える手法も見られますが、海外では買い手と売り手はイーブンの関係、等価交換が原則です。

 

木暮 フェアであることですね。

石井 英国メーカーから販売を請け負っている環境モニタリング装置は10年単位で更新を迎える商材で、長期間にわたってお客さまと関わることができます。今の顧客を大切にしながら「審美眼」を磨いて新たな製品を紹介していきたいですね。(おわり)

 

 

 

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