【第11回】「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは、現在は1986年創業のインド料理店「Tandoor(タンドゥール)」を恵比寿と目黒に展開するインド出身のチャンダー・メヘラさんです。※インタビューの最後に読者サービスがあります。

木暮 大学同窓会での活動やインド料理店のオーナーとしては存じ上げているのですが、それまではどういった道を?

チャンダー タンドゥールができて34年になりますが、大学卒業後は日本で就職し、熊本で種の研究をしていました。

 

木暮 タネ?

チャンダー 熊本は台風の襲来が多い土地です。アジア地域のマネジャーとして、風雨でも倒れないトウモロコシの品種改良を手掛けていました。その後、米国・ドレイク大学の大学院に進みました。MBA(経営学修士)の取得を目指して渡米したのですが、途中で興味が変わり、ジャーナリズムや遺伝子学のコースも履修しました。

 

木暮 組み合わせがユニークです。

チャンダー 遺伝子学を取ったのは前職の影響です。もともと進学先にドレイク大学を選んだのも、そのサイエンス企業の本社と同じアイオワ州デモインにあったからで、修了後は狙い通り現地採用されました。その後、半年で日本への転勤が決まり、それから1年足らずでインドネシア赴任に。そこで2年半ほど滞在し、それからハワイに行きました。

 

木暮 ハワイですか?

チャンダー 東京・白金台でタンドゥールを始めていた実弟が海外に2号店を出すことになったのを機に、サラリーマンを辞めてレストランを手伝うことにしたのです。妻がハワイ好きだったもので。ハワイ店の経営に携わった後、白金台の店舗が移転した95年に私も帰国しました。

 

木暮 日本でのレストラン経営の難しさとは?

チャンダー 主に2つあります。ひとつは外国人の就労をめぐる政策の変わりやすさ。タンドゥールはインドからコックを呼び寄せるのですが、国の政策が頻繁に変わり、ビザの取得が難しいことです。この2年ぐらい条件が厳しくなっています。もうひとつはロケーション(立地)です。

 

木暮 なかなか目当ての場所が見つからない?

 

チャンダー 不動産屋が事実を話してくれないこともあります。候補のテナントビルが恵比寿で見つかった時も、先方は当初「空いていない」と取り付く島もありませんでした。事情を聞いた日本の友人が立ち会ってくれて再交渉に臨んだ際、ビルを借り上げている会社の社長をはじめ経営陣の多くが上智大卒だったことが判明。すかさず「私も同窓です!」とアピールしたところ意気投合し、あっという間に決着しました。コネがあれば乗り越えられることもありますね。

 

木暮 外国人が土地を借りるのは大変ですね。長く日本で商売をされて、日本人をどのように見ていますか。

チャンダー あえて言えば商売に関しては慎重かもしれません。一度は断られたテナント入居も誰かが同行して再交渉すると契約できましたし。私自身は日本人のことが本当に大好きです。店を借りる時や銀行から融資を受けるときも、助けてくれたのは日本の人たちです。

 

木暮 留学先としてなぜ日本を選んだのですか。

チャンダー 偶然です。「飛行機の行き先がたまたま羽田空港だった」ということにしておきましょう。日本在住の友人がいたことも理由のひとつです。当時、下宿探しには苦労しました。都内の物件はことごとく断られ、ようやく習志野でアパートを借りられました。キャンパスのある四谷まで2時間近くかけて通いました。

 

木暮 来日早々に冷たい仕打ちを受けて、日本を嫌いになりませんでしたか。

チャンダー 奇妙だと思いましたが、乗り越えようと受け入れました。外国ですから思い通りにいかないことはあります。あの当時は学生向けの物件が少なく、大家は強気になれるわけです。今も東京でアパートを借りるのは難しいですからね。

 

木暮 誰かのせいにしない。

チャンダー 批判するだけでは次に進めません。まず受け入れないと。

 

木暮 友人に励まされたり。

 

チャンダー 保証人になってくれた友人もいますし。人との関係は大切にしなくてはいけません。もうあまり大事にしなくてもいいかな、という人もいますがね。

 

木暮 お店の料理はおいしいと評判ですね。日本人の舌に合うように努力されているのですか。

チャンダー スパイスの組み合わせや、お客様の好みに合わせて辛さを調整できるように工夫しています。スタッフの教育も大事です。インドから連れてきたシェフをメンバーに加えながらタンドゥールの味を維持するのは難しいですね。店員同士で教え合うのですが、すぐにはできません。店の味に慣れるのに1年ほどかかります。

 

木暮 長いですね。レストランのシェフが新しい味を自分の舌で覚えていく手法は、一般のビジネスにも当てはまる気がします。現場にどう適応するか。調味料の分量だけで決まる話ではないですよね。

チャンダー スパイスを混ぜるタイミングや鍋の温度、具材を投入する順番も重要です。そして大切なのは作っている人の「気持ち」です。

木暮 気持ちは大事ですね。私がいるコンサルティング業界でも、技能やスキルだけではなく、説明する相手や話し方にも配慮しますが、「気持ち」がなければ伝わらない。全く同じです。

チャンダー 気持ちをもって「社会」に入っていけるかですね。周りを大事にしてビジネスを作れるかです。私の場合は日本と日本人が相手ですから、文化や人をどのくらい大事にできるか、が重要です。

 

木暮 インドで商売をしようという場合も根本には「気持ち」が必要だとあらためて思いました。インドビジネスの難しさを嘆く人もいますが、「この人と一緒にやりたい」という思いが大事です。

チャンダー 海外で仕事をするということは、「向こう側」に入るわけです。そこでどのような商習慣があるかを理解した上で、発言・提案することが必要です。インドネシアにいた時も現地にアジャスト(適応)し、フレキシブル(臨機応変)に対応できるかが重要でした。

 

木暮 自分の価値観を押しつけるのはナンセンスですよね。

チャンダー ハワイに出店した時も日本でのやり方はできません。現地のシステムに合わせたスタッフ運営を徐々に導入していきました。

 

木暮 新型コロナウイルスの影響は大きそうですね。

チャンダー 結構厳しいですね。ランチ休憩で外食する人は減っているし、営業時間も19時までに短縮しました。客足は8割減といったところです。

木暮 オンラインショップやデリバリーサービスも展開されているそうですが、何かの形で協力できれば。状況が落ち着いたら、まずはお昼を食べに早く行きたいです。

チャンダー ありがとうございます。新型コロナウイルスが終息したらぜひ木暮さんのボトルで飲みましょう。(おわり)

 

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