【第72回】「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは英国で30年近く日系企業向けに税務・会計サービスを提供する会計事務所「SIDIKIES Charterd Accountants(サディキズ会計事務所)」の代表を務めるアミヤ・サディキさんです。

 

 

木暮 生粋のロンドンっ子とうかがいました

アミヤ 父はインド出身です。パキスタンで数年過ごした後、1960年に英国に来ました。英国勅許会計士(ACA)の資格を取った後、母と結婚して私が生まれました。完全に英国文化の中で生まれ育っているものの、母国に関する知識も持ち合わせています。もともと異文化を吸収することが好きなんです。おかげで日本市場にも参入することができた気がします。

木暮 どんな環境で育ったのですか。

アミヤ 少年時代を過ごした70年代は、近所の誰もが顔見知りで地元商店街の店員さんとも気軽にあいさつを交わすような関係です。昔は地域のコミュニティに仲間意識がありましたが、そうしたつながりは英国では薄れてきているように感じます。80年代からロンドンの同じ地域で暮らしているのですが、移り住んだ当時は、そこで初めてのアジア人一家だったようで、私たちと同じ文化や文化的背景を持つ人はいませんでした。ところが今では、私たちと同じルーツを持つ人が大半を占めるように変わりました。移住する人が多くなっているんですね。

木暮 コミュニティも変わってきているということですね。「私たちの文化」とは何を指しますか。

アミヤ 個人的には英国とパキスタンにルーツがあり、間接的ですがインドともつながっています。私自身はそれぞれの伝統と価値観がある文化を持つ市民だと言えます。英国が多くの移民を受け入れたことについては、プラスとマイナスの側面がありますが、英国人が異文化理解のための教育を受けられるようになったり、外国に対してオープンになった結果、世界各地のことが分かるようになったのは良いことです。

木暮 相手に対する敬意の重要性については、欧州では昔から広く認識されているのでしょうか。それともご自身が成長する中で何か変化のようなものがあったのでしょうか。

アミヤ コミュニティのつながりはやや衰退しているかもしれませんが、尊敬と理解という側面に関しては認識が高まっていると思います。お互いの文化をより意識できるようになっていることが分かるからです。日本文化の例を挙げましょう。例えば20年前に寿司について聞かれたら、どう説明すればよいか分からなかったはずです。しかし今は、さまざまな文化をもつ人々について以前よりも簡単に知識が得られるようになりました。違いについても知ることができています。

木暮 就職は会計大手を経て、お父さまの事務所に。

アミヤ 将来を決めかねていたこともあって大学院まで進学して、数理科学を学びました。卒業後、世界的な大手会計事務所で5年ほど勤務し、その後、父が立ち上げた会計事務所に加わりました。それから約30年以上もこの世界にいます。当社のお客さまは多様で複雑でした。ご存じのように、ロンドンには地球上のあらゆる場所から人が集まっていますからね。

木暮 外国人の問題解決に乗り出そうとしたのはなぜですか。会計事務所を開業されたお父さまも同じ方針だったのでしょうか。

アミヤ 創業時はとても大変な時期で顧客に応じたサービスについては、あまり考えていませんでした。事業が軌道に乗る中で、さまざまな顧客に合わせ、外国人向けにも展開することを私から提案したのです。

日本人駐在員の悩みを知る

木暮 日本を選んだのは?

アミヤ 入所した当時は日系の顧客は2社だけだったと思います。日本人経営者のみなさんは時間を厳守して几帳面。人物としても尊敬できる方ばかりで、ビジネスの観点からも日本流の経営手法がとても魅力的に映りました。事務所を大きくしたいと考えていたので、日本企業の市場に参入するのも悪くないかなとも思いました。

木暮 日本の顧客はどうでしたか。

アミヤ 日本人は面会の約束をすれば必ず現れる。そうではない国の方もいらっしゃるので、そうした部分も魅力の1つでした。当初は日本を良く知る外部コンサルタントに助けてもらっていましたが、本格的に日本人を採用する必要に気付き、そこで運よく磯部功治さんに出会いました。同じアイデアを共有していた彼と2人で競合との差別化のため戦略を立てました。それは日本人駐在員が英国で直面する問題を分析する事でした。彼らには多くのプレッシャーがあります。日本の本社との関係、家庭、それから言葉の問題です。全てを同時に対応するのは非常に難しい。進出した日本企業がもっとも大事にしていることは、本社と良好な関係が保てているか。それは駐在員が直面するプレッシャーの1つと言ってもいい。私たちは単なる会計事務所ではなく、彼らが抱える問題やストレスを理解した上で総合的なサービスを提供するコンサルティング会社であることを知ってもらおうとしました。

 

日本企業に精通する磯部さん(右)と笑顔で写るアミヤさん=本人提供
日本企業に精通する磯部さん(右)と笑顔で写るアミヤさん=本人提供

 

木暮 問題を的確に絞り込んで解決策を提案する。まさにコンサルタントの鑑(かがみ)ですね。

アミヤ 日本流のビジネスは世界中で一目置かれています。例えば時間厳守や細部へのこだわり、相手への敬意などです。ビジネスで最も重要なものの1つは信頼で、日本のお客さまが求めるのは信頼できるアドバイザーです。彼らと非常に率直な関係が築けることが分かる中で、私たちがコンサルタントとしてサポートするために協力をお願いすることも伝えました。英国人は夜遅くまで働きませんし残業もほとんどしない。英国で良しとされるのは効率的な働き方です。

木暮 日本人と仕事をされてきて、気になる点はありますか。

アミヤ 本社の様子を気にし過ぎるのか、英国で事業を拡大する意欲はあるのに予測されたリスクに挑む駐在員が少ないように感じます。着任1年目は現状の理解など前年のやり方に沿っても問題はありませんが、現地代表になった人は思い切ってやってみると良いのではないかと思います。お客さまの中に何年も前年踏襲を繰り返している会社がありました。理由を聞くと、彼らの答えは「これまでそうだったから」。そうした姿勢は一考の余地があります。やってきたことを疑わなければ、長い目で見た場合に良くない結果をもたらす可能性があるからです。これは日本人の性格の一部なのかもしれません。さらに、外国人コンサルタントと向き合う場面では質問を控え、自分の中に留めておく傾向があるようにも感じます。もう少し探求したり質問したりするようになると物事が良くなってくるのではないでしょうか。駐在員の保守的な姿勢には本社が大きく影響しているようです。本社からすると、3年ほどで日本に呼び戻し、昇進させることも視野に入れている大事な社員です。あえて余計なことをして失敗させたくない。駐在員もそうした本社の「親心」を感じるのでしょう。一方で、リスクを恐れず駐英4年目辺りから市場拡大に成功し、大きな利益を出している日本企業もいます。もし本社が赴任期間を5年以上に延ばせば、駐在員も「これまでそうしてきたけれど、次はこうしてみよう」といった姿勢に変わるはずです。そうすれば本来の実力が発揮できると信じています。

木暮 過去にとらわれず柔軟に考え、信じたことを実行できるように後押しする姿勢は素晴らしいですね。これからやりたいことは何でしょう?

アミヤ 将来の計画として考えているのは、東京に駐在員事務所を構えることです。メリットはたくさんありますし、日本への出張が多くなりそうですね。個人的には6つ目の外国語に挑戦したい。英語以外ではルーツであるウルドゥー語やヒンディー語のほかアラビア語とフランス語も話せます。まだまだですが日本語も始めています。有力候補はスペイン語です。習得にそれほど時間はかからないと思います。

木暮 外国語を学ぶことで、文化やその言語を話す人々をよりよく理解でき、新しい洞察が得られると思います。日本に進出される際はご案内しますよ。

アミヤ 英国進出の際は、ぜひ当社への依頼をお願いしますね。(おわり)

 

 

TOP