【第69回】「ほかにない価値を」金城誠さん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストはニュージーランド(NZ)産羊肉をはじめとする加工食品の輸入販売などを手掛けるアンズコフーズの社長を務め、現在は食品企画・開発に関するコンサルティングを行う実業家の金城誠さんです。

 

木暮 中学生の時に単身で沖縄から越境入学されたそうですね。

 

金城 地元の中学校に入りましたが、那覇の小学校時代とは周囲の環境が違うことが分かってきた。高校進学を前に将来が不安になって父に進路を相談したんです。英語教育に力を入れているという全寮制の中高一貫校が横浜にあり、親類のつてを頼って転校しました。

木暮 危機感があった?

金城 事業をしている父の影響もあったのか、自分も将来、何か大きなビジネスをしたかった。そのためには、もっといろんな人と交われる環境に身を置いた方が良いと思いました。

木暮 そこからニュージーランドとの縁ができるわけですね。

金城 その学校の交換留学制度に応募しました。当時は希望すれば誰でも行けたんです。仲間は米国やカナダを候補に挙げており、自分も北米に行くつもりだったのですが、父からはニュージーランド行きを命じられました。どうやら米国のハイスクールで良からぬ事に巻き込まれないように、という親心だったようです。ニュージーランドなら大丈夫だろうと。行ってみて分かったのですが、ニュージーランドもそのあたりは米国と大差がなかったんですけどね。

木暮 僕は志の大きな人間になろうと留学を目指し、高校時代の大半を米テキサス州で過ごしました。現地では危ないことも含めていろいろなことが起こりますよね。カルチャーショックはありましたか。

金城 すべてが新鮮でした。空港に出迎えに来たのはホストファミリー家の娘さんとボーイフレンドたち。到着日が直前で変更になったことも重なり、お父さんとお母さんと息子さんは休暇に出てしまっていると伝えられました。翌朝に休暇先で合流することになっていたようなんですが、事情が飲み込めない。水着を持って来るように言われて「日帰り旅行にでも行くのかな」と海パンとTシャツだけを持って出掛けたら、ホストファミリーの休暇に2週間同伴することが、現地でようやく理解できた。

木暮 まあ随分と軽装で。

金城 持ち物を見て相手も不思議に思ったはずです。「なんで2週間のバケーションにこんなものしか持ってこないんだろう」ってね。これは失敗談ですね。ほかにも夕食を現地では「Tea」と呼ぶのを知らなくて、お茶に誘われたと思って断ったら、その日の晩ご飯にありつけなかった、なんてこともありましたね。

木暮 いろいろなことを吸収できた。

金城 運が良かったのは、受け入れ先のホストファミリーがすごく素敵な方たちだったことです。到着してひと月も経たない頃、交通事故に遭って足を骨折してしまいました。まだ英語もまともに話せないし、自由に動けない。学校への送迎は仲間がやってくれたんですが、帰宅後は家で過ごすしかない。その結果、お母さんとの会話の中で英語を教えてもらえました。食品に関わる仕事に就くきっかけもホストファミリーとの出会いにあったんです。皆さん美食家でお母さんは料理が得意。日本ではお目にかかれない魚介類などニュージーランドのいろんな食材を手に入れては食べさせてくれましたし、日曜は「ローストディナー」と称してビーフ、ポーク、ラム(子羊)肉とチキンが週替わりで食卓に並びました。

木暮 出会いは大事ですね。

金城 もうひとつの出会いは、留学先で知り合ったニュージーランド人、のちの妻です。彼女自身が交換留学で横浜に来る縁もありました。ニュージーランドの大学に進学し、彼女と結婚して現地にどっぷりはまった理由のひとつかもしれないですね。お母さんにはのちに再開した際に「マコトはいろんな人と出会えて得るものが多い。すごくラッキーな人生だね」と言われました。確かにそうですね。

木暮 周りの方々に支えられている実感があるわけですね。

生業として関わる

木暮 卒業後に帰国されたそうですね。

金城 ニュージーランドの食品メーカーの日本支社に就職しました。現地の商品が日本市場にも入ってくる中で、アイスクリームを輸入する仕事です。小所帯で誰も教えてくれませんから、アポ取りから商談まで自分でやりました。

木暮 商談が上手くいく秘訣はありましたか。

金城 もし自分の営業スタイルに特徴があるなら「Status quo(現状)を変えていく姿勢」かもしれません。「これが業界の常識だ」と言われても、それに完全に従うのではなく「変えることでみんなが幸せになれるんじゃないか。過去よりもっと良い商品にできるんじゃないか」と常に考える。自分たちの常識を疑わない業界にこそビジネスチャンスはあると感じます。

 

 

 

木暮 ビジネスでは各国の違いは少ない?

金城 それほど違わないんじゃないかと思っています。相手の考えていることは似ています。売るために必要なことも同じ。何を消費者に伝えてどう動かすかという考え方も根本は同じような気がします。商習慣やカルチャーが違うことはあります。しかし、販売者と消費者という組み合わせは世界共通です。販売に携わると取引先しか見えなくなりがち。彼らがイエスと言えばイエス、ノーと言えばノー。社員には「問屋さんがノーと言っても消費者がイエスなら大丈夫。自社の商品の魅力を消費者に訴えることが大事なんだよ」と口酸っぱく言っています。ものづくりに徹底的にエネルギーをつぎ込んで取り組むメーカーのような意識を食肉メーカーも持つことです。薄利多売では付加価値が付けづらい。

木暮 現地の食品大手企業に転職されます。

金城 ニュージーランドの食品大手企業から声がかかりました。日本には駐在員として赴任する形になりました。当時、日本市場での販売拡大を目指していたのはラム肉です。ニュージーランド産はものすごくポテンシャルがあるはずなのに売れていませんでした。市場調査したところ、独特の臭みがあるという誤ったイメージが定着していたほか、店頭にあまり品物が並んでいない上、調理方法も知られていないことが分かりました。ラム肉には脂肪燃焼効果がある「カルニチン」という成分が豊富に含まれています。ダイエットに最適であることを発信されていた大学の先生らとラム肉のイメージアップを目指した販売キャンペーンを展開しました。売り方も工夫し、問屋だけだった販路を量販店にも広げた。店頭に並べることで調理方法も消費者に効果的に紹介できるようになりました。女性を中心に「ラム肉はヘルシー」という認知が広まったんです。

木暮 僕はラム肉のファンです。

金城 牛肉の販売にも力を入れました。品質には自信がありましたが、業界内では認知度が高くない。商品としての価値を認めてもらうために、レストラン内に陳列している熟成肉をその場で調理して提供する店を自分たちで作ることにしました。そこをアンテナショップとして機能させ、業者さんや消費者に来てもらう。おいしいと思えば彼らが情報を拡散してくれるだろうと。これまで店頭販売費として毎年使っていた資金を投資して建設費に充てました。

木暮 いま東京タワーの目の前にあるレストラン「WAKANUI」ですね。

金城 備長炭で焼いたり、米国のステーキハウスとは一線を画す調理方法も導入したりしています。彼らと差別化しなければ太刀打ちできません。

木暮 ユニークな価値は大事ですね。今後はどんなことをされたいですか。

金城 おいしい牛や羊がもっと提供できるはずですが、採算の観点で大手企業はやれない面もある。生産で学んだ知識をベースに品種や飼料にこだわって育てた牛や羊を増やしたいです。スペインの一部やフランス料理では「アニョー・ド・レ」として知られている生後4週間程度の乳のみ子羊のおいしさも広めたい。ニュージーランドにも生産メーカーがあります。いまはフランス料理店を一軒一軒、回ってシェフと商談しています。お店で食事をした後でシェフに話を持ち掛けると大抵の方はニュージーランド産の乳のみ子羊に興味を持ってくれて、そこでオーダーまでしてくれるんですよ。(おわり)

 

 

TOP